Interview
郡山の里山に、ワイン用のぶどう畑があります。その一年を、企画ごと渡します
有限会社降矢農園
値段も、集め方も決まっていないワインぶどうの勉強会に。
郡山市田村町川曲。里山を上がったところに、ワイン用のぶどう畑があります。赤はメルローとカベルネ・ソーヴィニヨン、白はシャルドネです。

育てているのは、ふるや農園です。郡山市内のふくしま逢瀬ワイナリーと契約し、収穫したぶどうをワイナリーへ販売してワインが作られます。
この畑で勉強会を開きたい、というのが降矢(ふるや)さんの構想です。
ー今回、学生に手伝ってもらいたいのは何ですか。
降矢「ワイナリーさんとソムリエさんとタッグを組んで、一年間の勉強会みたいなものを開催したいんです。毎月畑に来てもらい、作業の説明を受けて一緒に作業したり、作業を見学したりする。収穫の時期には一緒に収穫をする。ワイナリーでワインの仕込みを手伝って、出来上がったワインをソムリエさんの説明を聞きながらみんなで飲む。こういった、ぶどうの木からワインまでを一気通貫で体験するものを作りたい」
勉強会の中心になるのはぶどう畑です。2月から4月の剪定(せんてい:枝を切り樹形を整える)から始まり、時期ごとの作業を経て、収穫は9月から10月にかけてです。ワイナリーでワインを仕込み、飲めるようになるのは翌年です。

参加者の関わり方は、いい意味で自由です。作業の説明を聞き、ぶどうの様子や作業を見て帰ってもかまいませんし、一緒に作業をしてもかまいません。来られない人のために、毎回ネット中継をつなぐなども考えています。
ワイナリーが募集する収穫ボランティアも畑に入るのは収穫の時だけです。一年を通して畑に人が通う形はまだありません。
決まっていないことがあります。どのように告知し募集するのか。参加費をいくらもらうのか。一年間の進行を誰がどうやって回すのか。学生さんと一緒に作り上げたい。
ー若い人には、どんなことを考えてほしいですか。
降矢「まず、これをどうやって告知し募集していくか、です。私たちだとYouTubeを使うみたいな発想になっちゃうんだけど、もっと違うやり方もあるんじゃないかな、と思います。世の中にいろんなサービスがあったとしても、自分の知っているものでしか構築できないですから、学生さんの知識も活かしたいです。」
お金の頂き方も、これから考えるところです。降矢さんがやりたいことの一つとして挙げたのは、動画に投げ銭がつく仕組みでした。一度撮ったものがそのあとも資産として活用できる仕組みです。
ー運営までやってほしいですか。
降矢「運営も協力してくれるんだったら、それに越したことはない。運営のために必要なら会社を作って、そこにみんなで所属してもらうとかでもいいと思っています」
ワインにしたいと言い出したのは、生徒たちだった
2021年、郡山市で「ワインブドウの学校」の第1期が開かれました。ふるや農園の畑も栽培指導の畑として使用されました。ぶどうの栽培を、畑で2年かけて教える講座です。理論を室内で教える講座はたくさんありますが、実際のぶどうの木にハサミを入れて実践形式で教える講座はとても珍しく、他に聞いたことがありません。降矢さんによると、全国から20人超の生徒さんが月に一度通い、中には大阪から来ていたソムリエさんもいました。
学校が教えるのは栽培までで、醸造はやらないことになっていました。それでも生徒たちは、栽培技術を学びたい方から、ワイン好きが高じてワインブドウの学校に通う方まで、様々な方がいました。せっかくだから自分たちで育てたぶどうをワインにしたいと言い出しました。ワインブドウの学校は関与せず、生徒たちが主体となって、ワイナリーへ持ち込んで仕込んでもらいました。ただし、委託醸造したワインを生徒が買うには、誰かが売り手にならなければなりません。酒を売るには免許が要ります。降矢さんは酒販免許を取り、自分が売り手になりました。
学校はその後、長野県の塩尻へ移りました。それでも収穫の時期になると、降矢さんは冷蔵車で長野へ向かいます。塩尻の畑から20キロ離れたワイナリーまで、生徒が収穫したぶどうを運ぶためです。出来上がったワインも、数百本になりますので、自分で取りに行きます。
降矢「宅急便を使うよりも、自分で行った方が安くなっちゃうんだよね。まあ、自分の人件費は考えてないけど(笑)」
ちなみに、降矢さんには参考にしている手本があります。山形の農家さんの話ですが、訪ねてきた人が畑で2キロのぶどうを摘み、その場で手で搾ります。搾ったぶどうを預けて帰ると、半年後にワインになって届きます。ちょうどクリスマスの時期に届いて、収穫したときのことを思い出しながら楽しくワインを楽しめるというものです。
ワインに関心を持つ人の中には、ぶどうの栽培や醸造に興味がある方もたくさんいることが分かりました。そういった方に、ぶどうの木の世話からワインを飲んで楽しむまでを全部、体験できるものを提供したいというのが今回の勉強会の内容です。
大阪から通っていたソムリエさんは、いまも長野の講座に関わっています。降矢さんは、今回の勉強会をそのソムリエさんと一緒にやりたいと考えています。
結果として、ぶどう畑も、醸造先のワイナリーも、酒販免許も、ワインの説明をしてくれるソムリエさんも全部揃っている。あとは実行するのみ、という状況です。
休める農業を探して、父はカイワレにたどり着いた
ここでふるや農園(正確には有限会社降矢農園です)の紹介をします。ふるや農園を営む降矢家は、300年以上、降矢さんで15代続く農家です。ふるや農園を始める前、降矢さんのお父さんは稲作、乳牛、養蚕、葉たばこを手がけていました。牛も蚕も、生き物ですから毎日世話をしなければなりません。今と違って、当時の冬はしっかり雪が降り積もり畑に出られないので、冬の間はタクシー運転手のアルバイトをして、一年中休みなく働いていました。
ー水耕栽培は、なんで始めたんですか。
降矢「父がヨーロッパへ農業視察に行く機会があったんです。向こうでは日曜日に、誰も畑へ出ていなかった。教会へ行くからです。父は農民も休んでいいんだ、と初めて気づいて大きな衝撃を受けて帰ってきました。」
休みの取れる農業をやりたい。そう考えたお父さんが選んだのが、カイワレ大根でした。
降矢「農業はね、米だと一年に一回しか練習(栽培)できないんだよ。人生で50回くらいしか作ることができないよね。でもカイワレ大根は、一週間でできる野菜。静岡にカイワレを作る農家があると知り、父は訪ねていきます。そこで1か月半ほどの修行期間で、40回ほどカイワレ大根の栽培練習をして、栽培方法の基礎をマスターできたんです。一週間で作れるカイワレ大根だったから、今までの農業を全部やめて、カイワレ大根農家になるという決断ができたんだと思います。」
降矢「昭和57年、お父さんはカイワレ大根の水耕栽培を始めます。東北では初めてでした。一年目で1億円を売り、多い年は、カイワレだけで4億から5億円の売上があった。全国にカイワレ大根農家も増え、最盛期には全国に400農家以上いたと聞いています。」
盛者必衰、そんな景気の良い話は永遠には続きません。平成8年、集団食中毒の原因としてカイワレ大根の名前が挙がり、売れなくなりました。その後、最高裁判所で原因食材ではなかったことが認められましたが、カイワレ大根を手がける農家の多くは廃業し、いまは全国で20軒弱しか残っておらず、東北に残っているのはふるや農園と秋田県の農家の二軒のみです。
ー辞めた人もいたなかで、続けた理由は何ですか。
降矢「うちはカイワレ屋だから、という小さなプライドで続けている面はあります。私はカイワレ屋の息子だ、という(笑)」
ふるや農園は、その後、様々な作物を栽培しカイワレ大根だけに頼らない経営を目指しています。その中で、現在は、カイワレ大根、豆苗(とうみょう)、サンチュ、いちご狩り農園、ワイン用ぶどうを作っています。降矢さんも5年前に経営を引き継ぎ、現在に至っています。

いちごのほうにも、まだ手をつけていない案がある
降矢さんがいちばん手伝ってほしいのは、ぶどうの勉強会です。でも手伝ってほしいことは、ほかにもあります。
ふるや農園はいちごの観光農園(いちご狩り農園)でもあります。いちごのハウスは、幅75メートル×奥行き40メートルで3,000平方メートルあります。いちごが植えられた棚が36列並び、1列を往復するだけで80メートル、全部見て回れば3キロ近く歩きます。どれだけ実がついているかは、全部を歩いて確認する時間は取れないので、ハウス内をざっと見た体感で判断しています。

降矢「いちご狩りに来たけど赤い実がなかった、ということがないように、ふるや農園のいちご狩りは予約制にしています。当然、100人分のいちごがあると思って100人の予約を取ったのに、90人目で足りなくなりました、ではまずいじゃないですか。だから予約を取るときは弱気になってしまうわけです。でもそうすると、いちごが余る。」
余った分は従業員が収穫することになります。つまり売上の減少と、収穫作業および後日かきいちごとして販売する作業の増加が生じ、人件費増加となり、経営を圧迫します。これを避けるためにやりたいことがあります。
一つ目が、実の数を機械で数えることです。朝にハウス内をドローンで撮って、AIに数えさせます。赤いいちごと、半分だけ赤いいちごを分けて数えられれば、いちご狩りの予約を何人まで受けられるかがより正確に判断できます。このシステムを一緒に作ってほしい。
二つ目は、余ったいちごの使い道です。いまは、凍らせたいちごをそのまま削る「かきいちご」としてイベント出店で売っています。販売に必要な備品をまとめて貸し出して販売してもらう、フランチャイズとして広げたい。貸した相手から受け取るのは、材料もカップ代なども込みで一杯◯◯円と固定額にして、売れ残りは返してもらう。これなら貸した相手に在庫は残らず、リスクの低い販売が可能になり、Win-Winの関係ができると考えています。このフランチャイズを一緒に作ってほしい。
会社の大事な機能は、雇用だと思っている

降矢さんは、会社が果たす役割を、川曲という集落の単位で考えています。この地区に人が残り、そのコミュニティの一つとしてふるや農園があればいい、という言い方をします。
ー川曲に、何を残したいですか。
降矢「利益だけ求めるんだったら、AIとロボットでほとんどのことができてしまう。でも、ふるや農園だけが儲かって、川曲の集落から人がいなくなってしまっていいわけがない。会社の大事な機能は雇用だと思っている。きちんと稼いで、きちんと人を雇いたい。その意味でふるや農園という働く場を川曲に残したいと思います。」
ー後継者のことは、考えているんですか。
降矢「いまは考えていません。儲かってる会社だったら、誰かが「継ぎたい」とか「買いたい」と言ってくれます。だから後継者を作ることは目標じゃなくて、儲かる会社を作ることが目標です」
値段も、集め方も決まっていないワインぶどうの勉強会に、_ _ _ _を。
(2026年8月 取材 松井司)
会社概要
会社名
有限会社降矢農園
所在地
福島県郡山市田村町川曲
事業内容
スプラウトの水耕栽培、いちご、ぶどう、養豚
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