Interview
車を直した人を選ぶ賞を、郡山の整備工場がつくろうとしています
株式会社オートデンソーマルヤマ
整備士の価値を、見えるようにするために。
日本カー・オブ・ザ・イヤーという賞があり、毎年その年のいちばんいい車が選ばれます。郡山市の株式会社オートデンソーマルヤマは、その車を直している人を選ぶ賞を作ろうとしています。代表取締役、丸山類さんが立てている構想です。
賞をつくるために必要なのは、整備士が何をどれだけやったかの記録です。
ーその構想に行きついた理由は、どこにあったんですか。
丸山「水素で走るトラックの修理が入ってきたんです。取引先の人もデンソーも来て、どこがおかしいかを調べるんですけど、結果その部品は、小さな作業で直るものだったんですよ。
そこで話をしたときに、この作業ってトラックとしては初めての修理ですか、と聞いたら、そうですと。有償修理としては日本で初めてですよね、と言ったら、そうなりますねと」
だとすれば、世界でも初めてになります。そう確かめると、ですね、と返ってきたそうです。作業をしたのは、この会社のベテランのサービスマンでした。
丸山「実は世界で初めて水素トラックの修理をした人ではあるわけなんですけど、それがふーっと流れてる」
同じことは前にもあって、この工場は昔、カーエアコンの後付けで食べていた時期があります。エアコンが付いていない車が当たり前だった頃です。
年間で何千台つけたんだ、と当時の整備士は言いますが、その台数はどこにも残っていません。
丸山「数が分からん。そこがまず証明できなかった」
だからいま、仕事の履歴を記録するアプリを作っています。まずは自社で使い、誰が、どの車を、何台さわったかを残します。やっていることをそのまま記録するだけの仕組みです。
他社の整備士も使うことで、数字が意味を持つようになり、賞も成り立ちます。このアプリは、広がることで完成します。
丸山さんが何度も口にしたのが、その広げ方でした。
丸山「同世代がまず共感してくれるかどうか。そこを、同じ世代の人と一緒にやりたいんです」
あなたに渡されるのが、この広げ方です。名前の付け方も、最初に使ってもらう相手も、届ける言葉も、これから決めるところです。しかも、あなた自身が使う人になれます。アルバイトで働いた時間を残し、就職試験でその記録を出す。丸山さんはそこまで考えています。
同じルールで比べる、整備士の賞

オートデンソーマルヤマの創業は昭和23年10月、郡山駅前の丸山電機商会が始まりです。いまは郡山店、会津店、白河店があり、自動車の電装品を売って直し、農業機械の修理と車検も扱います。
郡山店には、デンソーダイアグステーションがあります。電子制御が進んだ車を診断できる、デンソー認定の拠点です。
デンソーダイアグマイスターの資格を持つ整備士もいます。特別教育を受けて検定試験に通った人だけが名乗れる資格で、郡山店工場長の伊藤さんと、小型1級自動車整備士の吉田さんが持っています。
丸山さんが考えているのは、その先です。デンソーには技術コンクールが、トヨタ店にはサービスマンコンクールがあり、それぞれの仕組みの中で整備士が認められています。丸山さんが目指すのは、その枠を越えて同じ物差しで比べられる場です。
ー整備士を選ぶ賞は、あってもおかしくないですよね。
丸山「そうなんですよ。大谷翔平がすごいのは、同じルールの中で決まった人数が戦ってるからこそ、その数字がすごいってことが分かるわけです」
アプリで期間を区切って同じ数え方をすれば、トヨタ車を一番整備した人が決まります。いまやっている仕事をそのまま記録するだけで、そこに価値が生まれる、と丸山さんは言います。
その前に、丸山さんはまず社内を変えてきました。会社に入ってまずやったのは、現場の社員全員にスマホを渡し、グループウェアに予定を入れてもらうことです。やがて社員のほうから、無いと困る、と言われるようになりました。
仕組みと生産性を見直し、攻めに入ったのがいまです。
番組制作から、整備工場の経営へ

丸山さんは長野県の出身で、中央大学に進みました。野球の監督になるつもりで、教職も取っています。
高校野球の県予選でホームランを打ち、何試合かテレビに映りました。知らない人から、すごかったね、と声をかけられます。
人に影響を与える仕事がいい。そう思って入ったのが、番組制作会社でした。
結婚を機に、妻の実家がある福島へ帰省します。そこで、いまの会長から手伝わないかと声がかかりました。
ー決め手は、どこにあったんですか。
丸山「仕事の中身がどうというよりは、家族からそう言ってもらえる縁です。そういう機会は、なかなかないことだと思いました」
引き受けた丸山さんは、デンソーで5年ほど修行してから、いまの会社に入ります。
ー経営で、大切にしている軸はありますか。
丸山「仕事は、何でもやれるタイプなんです。職業で分け隔てする感覚がなくて」
学生のころは、アルバイトをいくつもやりました。葬儀屋、郵便局の仕分け。それが全部生きている、と本人は感じています。アプリの発想も、そこにつながっているかもしれない、と丸山さんは言います。
ー郡山をどうしたい、というのはありますか。
丸山「東京じゃないこの地方の郡山という都市の1整備工場が、なぜかこんなことを始めた。それが世間に受け入れられて発信できたら、めちゃめちゃ地元が元気になる」
郡山で稼げれば、税金として地域に落とせます。地域に貢献するには、まず自社が元気でいることだ、と丸山さんは言います。
アプリと職業体験、二つの頼みごと
このアプリは、これから世に出るところです。記録を積み重ね、数がそろったところで比べられるようになります。
丸山さんが急いでいるのは、整備士という仕事に若い人を呼び込みたいからです。自分の仕事に誇りを持っている整備士は多い、と丸山さんは話します。
丸山さんが頼みたいことは、アプリのほかにもう一つあります。丸山さんが青年部でやっている小学生向けの職業体験を、プログラムに組み直すことです。体験したことが本人に残り、あとから振り返れる形にしたい、と考えています。
関わり方は決めておらず、事業部に入るのでも、一部を受託する形でもかまいません。
ーどんな若者に来てほしいですか。
丸山「バイトとかめちゃめちゃいろんなことをやってきましたみたいな人のほうが、刺さってくれそうな気もします。あとは女性の意見も聞いてみたい。主婦って、整えるとかなりのことをやっているわけですから」
上下関係はフラットで、気兼ねなく意見してほしい。求める人物像へのこだわりはない。丸山さんはそう話しますが、はっきりした好みが一つだけありました。
丸山「かっこいいことをずっとやれてる人は、多分ずっとできそうな気がしてる。どちらかというと努力家で、やりたいんだけど、みたいな人のほうがいい」
整備の外まで広げたい「技」
丸山さんは、このアプリを整備の世界だけで終わらせたくないと考えています。技を持つ人の仕事なら、どんな職業にも広げられるからです。
丸山「掃除する人でもいいと思いますよ。日本料理屋さんとかもそうですし。技って言われて続いてきた伝統の工芸も同じだと思うんですよ。なり手を増やすために、このゲーム、この試合、このプロリーグに参加しようぜ、みたいな感覚になっていってくれたら」
外国から来た人も参加できます。ラグビーの日本代表に外国出身の選手がいるのと同じだ、と丸山さんは言います。
整備士を選ぶ賞の表彰式は、5年後の目標です。会場として考えているのは、日本自動車工業会のジャパンモビリティショーで、前回は2025年秋に開かれました。カー・オブ・ザ・イヤーの前座でもいい、と言います。
会社が100年になるのは2048年で、そのとき丸山さんは70歳です。掲げているのは、他の整備工場のお手本になることです。いいことも悪いことも出し、やれるうちに小さい挑戦を重ねる。
丸山「整備工場と整備士の価値を上げ続けましょう」
まだ、誰も選ばれていません。
整備士の価値を、見えるようにするために、_ _ _ _を。
(2026年8月 取材 松井司)
会社概要
会社名
株式会社オートデンソーマルヤマ
所在地
福島県郡山市南
事業内容
自動車の電装・整備・車検と、農業機械の修理
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